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EVA

カヲ→シン
しとど濡れる、
言うなれば彼は、過度なまでに臆病でとても弱く、そしてひどく利己的だった。
人との触れ合いを極度に避け、その癖構われることを喜ぶ、矛盾を抱えることを
枷とされた人間を善くも悪くも体現したかのような、愚かな子供である。少し名
前を知られているからといって戸惑いと僅かな優越と羞恥を赤みの広がった顔に
浮かべる、変なところで器用と言えばそれまでの子供である。まあ、彼が内向的
かつ人の顔色をあからさまに窺うような苛立つ人種となってしまった原因の一端
は、彼を、延いては自分を傷つけることを恐れた彼の父親が、既に母を亡くし、
まだ両の足で立つことも侭ならない幼児であった彼の育児を投げ棄てたことによ
る。
さぞや彼は泣いただろう。落涙に暮れる子供を一顧だにせず、去りゆく父親の背
中が遠ざかる様にさぞや彼は絶望しただろう。そして彼は卑屈になった。




LCLの海を漂う。形もなく、魂といった概念もなく、記憶すら曖昧な羊水を漂
う。視覚もなく、聴覚もなく、触覚もない、ただ意思なき草のように水面を、ゆ
るりと泳ぐ。
緩慢だ。しかしそれに退屈を感じたり思考する脳を僕はもうなくしてしまった。
外内隔てず貧弱な彼を憎からず想っていたあの頃も、甲斐なくこの無限に広がる
生命の源に落としていった。ここで一度でも彼が(更に視野を広げればファース
トもそこにいたのだけれど、僕は意識的に除外した。彼が彼女と一瞬でも繋がっ
ていたなどと思い出したくもない。いや、だから、脳はないけど、)、たゆたっ
ていたことに少なからずどうして良いのか戸惑う。それと死ぬ前に見た彼の泣き
そうな顔(ただの錯覚かもしれない。寧ろ見える方がおかしい。彼は初号機に乗
っていた)とファーストの無感動な顔を見たことだけ、それが僕の全部だ。

ぼちゃん!

彼に千切られた僕の首がLCLに落ちて、それから彼らの世界がどうなったのか
、正確に詳しくは知らない。知る術も興味もない。
ただ、もう彼と話し、笑い、沸き上がる気持ちの一片を分かち合うことができな
いことに、一抹の寂しさを感じるだけで。
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