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古キョン古

リハビリss
なんかいろいろ注意な表現が飛び出してきますよー。
きっと、きっと、奴は。


別れの日がきたときの、SOS団が高校生活の終わりと共にその意義を崩壊させたときの、こいつの顔はひどかった。朝比奈さんもかくやというほど涙を流し、みっともなくしゃくりあげ、「そこまで惜しんでくれるなんて!」とハルヒを勘違いで喜ばせるほど泣いた。さんざっぱら泣きまくってようやく弱々しいながらもいつもの笑みにきりかわった様子で、すみませんと恥ずかしげに小さく呟いた様は少したじろぎもしたが、俺のことはどうでもいい。
古泉が泣いたのは、これで二度目だった。
ハルヒは国際方面に強い大学で、留学チームに組まれたそうだ。昔はそんな話なんか持ってこられたその鼻先で扉を閉めるような奴だったのに、道徳的に成長したようで、何よりである。その話を聞かされたとき、朝比奈さんは素直に喜び(卒業しても足しげく通ってお茶を振舞って下さることは、濃すぎる上、俺じゃストッパーの務まらない面子のおかげで瓦解しかけていた俺の精神的に大変よろしい安定剤となった)、長門はハルヒと俺を一瞥したあとでいつも通り本を読んでいた。けれど、古泉は違う。口は半笑いのくせして目はこれ以上ないほどかっ開いて、ハルヒを見つめながらただ呆然と立っていた。
そのときの古泉の心境は、俺如きが推し量るのなら、私を捨てるのとヒステリックに叫ぶのを堪える女のような、そんな雰囲気すら漂わせるほど、奴がいかにハルヒへ依存していたかを突きつけられたような心持ちだったに違いない。
あんまりにもちぐはぐな表情の状態が続いたものだから、俺は、とろとろ歩き、自宅まで帰るどころか線路に入って電車を待つんじゃないかと思わせるほど悲壮にくれた古泉の手を引き、奴の家まで懇切丁寧に送り届けてやったのだ。かたく筋張って、女々しい顔立ちのくせに立派に男であることを象徴している古泉の手首は(誰が手なんて握ってやるものか、おぞましい!)可も不可もなく、寒もなく暖もなくといったところだった。それが今はものすごく後悔している。

「何てことしやがるんだお前」

古泉の、もたれかかってそのまま体重の全部を任せるように押し倒す勢いに負けて、まあその、なんだ、いわゆる裸で格闘(あー、察してほしい)をしたあとの俺の第一声がこれである。
本当に格闘みたいだった。古泉の顔とか体とかは俺がめいっぱい抵抗して殴ったせいで赤くなっていたし、俺は風呂に入ったり便座に座ることが憂鬱になるくらい尻が痛いし、なんだかお互いあらゆる意味で満身創痍な有様で、裸のままベッドに座り込んでいた。においとかも色々あれで、なんというか、俺、死にたい。
古泉は折った膝に顔を埋めて沈黙して、俺の言葉なんてついぞ聴いてないという格好のまま座っていた。俺は俺で、腰っていうかそこらへんが痛くて熱くて泣きそうになりながら(実際は泣いたあとだけれど俺の名誉のために!)、もう一度同じことを呟いた。声がかすれて言葉尻が消えそうで、裏返った言葉に情けなく思った。
何とか言えよこのやろうばかあほくそったれ
いまどき子供でも言わなさそうな頭の悪い罵倒に(それでも死ねと言わなかったのは、言ったら本当にこいつは死んでしまいそうなほどへこんでいたからだ。俺に殺人教唆の趣味はない)、古泉はようやく応えた。嗚咽で。
待て何でお前が泣く。泣きたいのはこっちだばーかばーか。

「すず、みやさんが、い、てしまう」
「そうだな」
「すずみやさんが、とおくに、いってしまう」

ピロートークには色気も足りないし(それ以前にこいつとピロートークに洒落込みたくない)、言っている内容は浮気された女が一夜限りの男に言う泣き言と同じそれで(役割的に俺が男なのか、と一応安心する)、俺はいちいち応えるのが億劫になって目を閉じた。泣き腫らした目は閉じるだけで目の周りの熱だとか重みだとかが和らぎ、俺はため息を吐く。古泉がおびえたように体を揺らしたが、腰が痛いのにベッドを効率悪く占領して横にもさせてくれない甲斐性なしの反応など眼中に入れてくれる必要もない。
古泉はそのまま泣き続け、俺は眠くなって座ったまま寝付いてしまって、結局お互い最悪のコンディションで休日の市内探索に向かったのだが、それ以降はなんだかんだで肉体関係なんて生々しいものは繋いでいない。ないったらない。
その日が、俺が初めて古泉の泣き顔を拝んだ日である。今後一切それがないと思っていた俺の予想は、本日みごとに裏切られたのであるが。

「…なんだかデジャヴを感じるのは気のせいなのか」

古泉の家で俺はひとり立ちすくんでいた。
目も当てられないほど泣いていた古泉に初めのうちはハルヒも喜びはしたものの、いつまで経っても延々と泣き止まない古泉のメンタルをさすがに心配したのか、俺に古泉の帰宅を責任をもって果たすよう任務を仰せ付けたのだ。以前との違いは受動的か能動的かのそれだけで、気づいたときには既に俺はリビングでくつろいでいるようにと泣きっ面の古泉に言われた後だった。ついでに古泉は目を冷やしに洗面所へ行かせたので、今は姿が見えない。
時折聞こえる水の流れる音に、俺は大いに焦った。いくらなんでもまた俺みたいな男を襲うほど古泉の理性は吹っ飛んじゃいないだろうけれど、俺にとってあの一件は鬼門なのだ。温い手首に反して暖かい掌と冷たい指先を思い出すだけで吐き気がしそうなほど。

「おや、座っていただいて結構でしたのに」
「うお、」

振り向けば古泉はタオルを持って後ろに立っていた。タオルから水を滴らせるままにしているあたり、まだどこか落ち着いていないのだろう。洗面所からは点々と水滴が足跡のように残っている。ああちくしょう、俺は別にそんなきれい好きでもないのにな。

「ったく、そのタオル貸せ。しぼってやるから」
「え?」
「え、じゃねぇよ。制服までびたびたじゃないか。傷むぞ。ブレザーは傷んだらすぐわかっちまうんだからな」

古泉からタオルをとりあげ、台所でしぼる。むしょうに腹が立って、いっそ引き千切れればいいとさえ思うほどタオルをねじる。やれやれ、俺は一体何がしたいのかね。

「なんであなたは…」
「あ?」
「なんであなたは普通にしていられるんですか」
「ハルヒのことか?あいつの奔放さは今に始まったことじゃないだろ。別に留学したって気が向いたってだけで日本に帰ってきたりもするんじゃないか?盛大に迎えてやらないと怒りそうだよな、あいつ」
「そうでなくて、僕に何をされたか忘れたわけじゃないでしょう?それなのにわざわざ」

ああああ!人があえて無視してきた話題を!
俺は古泉を睨むべく後ろを振り向いた。古泉の顔色を窺うような目線の中に、僅かな期待を見出してしまった俺は愚かだ。こいつが俺にどうして欲しいのか、なんとなくわかってしまった俺は今自ら断頭台にのぼってしまったに違いない。

「好きです」
「古泉」
「あなたが好きです」
「おい」
「あなたに触りたい」
「おい古泉」
「どうしようもなく浅ましいのは熟知しています。けれど僕はあなたのことが、」

好きです、といくらご尊顔麗しい男に言われても、嬉しくも何ともねぇよ。寧ろ鳥肌ものだ。

「古泉」
「はい」
「俺はノンケだ」

知ってますと古泉は笑った。その顔に泣いた痕が痛々しく、俺はなんとも自分が悪役に仕立て上げられたような悪い気分になった。




***

きっとまた押し負かされるんでしょう。
そういえばこのサイトではエロっちい話は初めてのような気がします。
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