更新
ばさら に絵いちまい
信号機+迷彩の予定。だった。多分まだかくつもり。
ロゴは某歌姫の拡声器のロゴをちょっといじったやつ。
話がわかる方いたら青いお莫迦さんと緑の子について語らせてください。
ブログがちょっと変わってぶっちゃけ使いにくくなった。あーあ。なんで一回改行するごとにこんな間あくかな。
され竜の小話書こうとしたら(ていうか話の半分書いたのに)フリーズしてパーになった…もう知らん。
追記↓
近いうちにハルヒで強化短編部屋つくります。
今のところ設定を考えているのは15こくらいで、全部パラレルになります。
なんかいまいちできがあんまよくなくて気に入らないからこっちにあげます天竺に行く四人組みの話。
たたんでみる。
いつもいつも、いつだって赤で終わる。
「ここから一番近い村までしばらくかかるようです。食糧を多めに買い込んでお
いて正解でしたねぇ」
地図を片手で確認しながらジープを運転する八戒がのんびりと言った。
荒涼として埃っぽい空気の中、じりじり首や頭の後ろを照る日光に微妙な不快さ
を感じつつ、悟空は欠伸をした。それを見咎めた悟浄がからかうように諭う。
「どうしたよ小猿ちゃん。いつもみてぇに腹減ったとか騒がねぇんだな。食欲の
次に睡眠欲たぁ、マジで猿並の本能しかねぇんじゃねぇの?」
「うるせぇエロ河童!煙草と酒と女にしか興味ない奴に言われたくねぇ!」
「ンだと馬鹿猿!悔しかったらそのガキみてぇなオツムからいい加減脱皮でもし
てみやがれ!」
「悔しくねぇよ!悟浄こそ子供の手本になるような大人にでもなれば!?なれる
もんならだけどさ!」
「あはは、悟浄から雑念を除いたら何も残りませんよ、悟空」
「テメェらうるせぇんだよ!ちったぁ静かにしやがれ!」
痺れを切らした三蔵が空に向かって銃弾をばら蒔き、次いで標準を後ろに座って
いる二人に絞る。次に狙うのは貴様らの脳天だと如実に語る目に、口論を繰り返
していたのも忘れ互いの肩を抱く二人に不満げな冷たい視線を投げ掛け、気が済
んだのか、三蔵は鼻を鳴らしてあげかけた腰を座席に押し戻した。
いつも通りの光景である。いつも、通り。悟空はそれに僅かな安堵を感じた。
近頃、寝付きも夢見も寝起きも悪い。どうしたって終わらない長旅と寝不足で疲
れた体は睡眠を欲しているのに、内容すら覚えてないくせにただ良くはないとは
っきりわかる夢のせいで、なかなか眠りに就けずにいる。ようやく微睡み始めた
というときに限ってもう夜明け前だ。
枕が変わるだけで不眠になるほど、繊細な神経を持ったつもりはない。その日の
内にどこかの町村に入れない場合は野宿だって厭わない男所帯の旅路である。今
更気にすることもないのだが、
「………は、」
例によって、今日も涼しげな風に吹かれながら、細々とため息を吐いている。
運悪く今日は野営とされ、あてがわれた布切れを各々身に巻き勝手な姿勢で寝息
を立てている中で、悟空一人がシーツをくしゃくしゃに丸めたまま夜空を見上げ
ていた。
人工の光が届かない空は暗い。星々が瞬くのを呆っと眺め、晒された夜気には冷
たい。
嫌な夢を見た。
飛び起きた際に誰かを起こすことにならなかったことに、些か胸を撫で下ろした
。誰かが起きて悟空を気遣い始めたら、芋づる式に皆々目を覚ましてしまう。そ
うしたら、起こしたことを、少なからず責められることもあるだろう。それが外
面上でも、心配かけるに変わりはない。夢見が悪いなんて子供じみて恥ずかしく
て、言えない。
いつもいつも、どんな夢を見ていたかなんてのは、目を開けた瞬間に大方が消え
てしまう。ただ、夢の中で悟空の滲んだ視界は揺れ、真っ白な背中を追い、ゆら
ゆら流れる金色の何かに心を弾ませながら声をかけるのだ。
金色の何か。
金色の、誰か。
『 っ!』
「、?」
そう。金色の髪を持った誰かを追い掛け、いつも悟空は走っている。それがたま
に白衣の人間と黒い大きな背中も増えるけれども、けれども悟空は変わらず彼ら
の名前を呼びながら走っている。
『 っ!』
『 っ!』
『 っ!』
そして悟空と同じくらいの背丈の人間が笑って手を差し出し、血まみれになって
、
「……………っっ!」
何かに急かされ、胸を掻き抱いた。
追い掛けるだけなんて悪夢にはならない。決して良い夢ではないが、血を見るよ
りマシだ。
堰を切ったように溢れ出す。大切な、大切な何か。忘れてはいけなかったもの。
忘れないと誓ったもの。忘れてしまっていたもの。
眠りに就く人の顔を窺い見る。順々に見る。
いつもからかうけど、頼りになってくれる悟浄。
何かあったら親身になって話を聞いてくれる八戒。
あそこから出してくれて、傍に置いてくれる三蔵。
大切な人たち。
それが夢で見たぼやけた人影と重なる。
大好きだった。多分、今でも好きだ。気持ちだけが溢れるばかりで、呼べる名前
がないのがこんなにももどかしい。
あの人はからかったりしなかったけれど、一緒に遊んでくれた。離れたりしない
と小指を結んでくれた。
あの人はいつも優しかった。心細いときに服の裾を掴むと、柔らかくゆっくりと
頭を撫でてくれて、本も貸してくれた。
あの人は自分を抱き上げてくれた。無愛想で、滅多に笑わないし笑顔が似合わな
いけど、いつだって悟空が手を引いたらついてきてくれた。
三蔵たちとは違う。三蔵たちによく似ているけど、少しずつ少しずつあの人たち
の残像とずれている。そのぶれがたまらず、悟空はジープを飛び出した。
叫びたい。名前を呼びたい。けれどもそれは悟空の持たぬものである。そしてき
っと返事は返ってこない。夢の最後を彩る赤が、彼らの最後をも告げた色のよう
な気がしてひたすら恐ろしかった。
脇道に逸れて雑木林に突っ込む。息が不規則に乱れようが知ったことじゃない。
悲しい。悲しい。
声なき慟哭をあげながら、そして悟空の姿はそこから消えてしまった。
**
朝目を覚ますと、悟空の姿がなかった。水の臭いもしないし小川の流れる音も聞
こえないので、朝一に起きて顔を洗いに行った、というわけでもなさそうだ。朝
飯時まで寝汚くシーツにくるまっているはずがしわくちゃに丸まったシーツだけ
しかないというのは一体どういうことだろう。
「あのアホ猿、どこに行きやがったんだ」
二つ目の缶詰を開けながら、悟浄がぼやく。
結局買い置きの缶詰を開く時になっても、悟空は戻ってこなかった。食べること
に関して、他の三人の誰よりもとらわれている悟空がいないと、周りはやけに静
かに思えた。
「三蔵、どうします」
「捨て置け。準備ができ次第、出発する」
「ちょ、置いてく気かよ!あいつが戻ってきたときどうすんだよ!」
「知らん。いなかったあいつが悪い」
にべもすげもない三蔵に息巻く悟浄をとりなし、八戒も顔をしかめて言った。
「しかしあの食意地の張った悟空がいつまでも来ないというのは気になります。
昨日は悟浄とも喧嘩なんてしてないでしょう?」
「喧嘩、ね。そういやぁあいつ、最近つっかかってこねぇのよ」
「ずっとあまり寝てないようですし…三蔵、やっぱり探した方が良くないですか
?」
「勝手にしろ。俺は何もしねぇぞ」
「期待はしてません。三蔵は迷子にならないように大人しくしててください」
悟浄の反抗が止まった。
三蔵の煙草の灰がぼとりと落ちる。
八戒は相変わらずにこやかに笑っていた。
「…ちっ」
ジープから腰をあげた三蔵を満足げに見遣り、八戒は缶詰を片付け始める。
「じゃあ、この周辺の雑木林から探しますか」
否やはなかった。
**
全くあの馬鹿猿どこに行きやがった。
白かった法衣は長旅でくたびれ、たった今踏み荒らしている雑木林のおかげでま
た汚れそうだ。次の町までどれくらいかかるか知らないが、これはすぐに洗濯が
必要になるだろうと考えて、憂鬱になる。話中の人間を一発殴らないと気が済ま
ないが、見え透いた八戒の挑発に易々と乗った自分も愚かなものだ。
悟空に会うまできゃんきゃん頭の中で響いてうるさかった声は、今は聞こえない
。けれど自分を呼ぶ声は造作なく思い出せる。それだけ長く一緒にいたのだろう
。長く、いすぎたのだろう。
悟空は、時折世話を焼かせるが、三蔵が守る必要も三蔵を守る必要もない分類に
いる。ただなんとなく共にいただけで、悟空がどこか別の場所に行きたがってい
れば、躊躇わないようにその背を押してやらなければならないと、何やら漠然と
覚悟していた。覚悟だけ、は。
「…くそが」
覚悟しかしてねぇじゃねぇか。
舌打ちして、飛び出してきた枝を跳ね退ける。
何だかんだと言って、自分はあれが心配でならない。見掛け18才のくせに、少し
幼稚な他よりずっと長く生きるであろうあれが、三蔵のいなくなるかもしれない
この先を一人で生きていけるか、不安でならないのだ。
っ!
存外近くで泣く声が聞こえた。哭く声が、聞こえた。
「…悟空、か?」
別に向かってやることもない。呼ばれ続ける声が自分にしか聞こえないのでなけ
れば。
「ちくしょう」
自分にしか聞こえない声がどこか煩わしい。
**
いつの間にやら少しばかり積極的に悟空を探している三蔵を、にやにや諭う悟浄
と八戒にばつの悪い思いをしながら引っ張り連れられて、淀みなく三蔵は林の中
を歩く。はっきりと確かに聞こえた声は一度きりだけれど、迷うことはなかった
。
「三蔵サマもやっぱりペットは大事なんだねぇ」
「うるせぇ」
「あまり三蔵をいじめるとへそ曲げて帰っちゃいますよ」
変なプライドがあるんですからと八戒が追い討ちをかける。
俺は一体いくつだ。
枝を踏み折り葉を散らし、歩くそのうちに向こうを向いて座り込んでいる木の幹
よりも鮮やかな茶色の頭を見つけた。見つけた安堵の下から沸きあがる苛立ちに
、やはり一発は殴らないといけないような気がして、足早に近づく。
「手間かけさせんな猿」
かける声に返る言葉はない。なんだなんだと野次馬よろしく悟浄が首を巡らせた
。
「悟空、戻りましょう。早くしないと悟浄が悟空の分の朝食食べてしまいますよ
」
「おーい、悟空?」
待てど暮らせど返事はない。それどころか、微動だにしない悟空の後ろ姿に痺れ
を切らせた三蔵は、荒々しく悟空の腕を掴んだ。
「ひ、」
息を呑む音。
瞬間、掴んだ腕が勢いよく振り払われる。
「てめ、」
「…っあ、ごめん!ごめんなさい!やだやだやだ、怒んないで!俺が悪いから、
謝るからっ、あやまるから…」
腕を振り回し、みなの手を跳ね退け、悟空は膝を抱えた。小さくごめんなさいを
繰り返し言う悟空に、何かおかしいと気づく。
泣いては、いなかった。ただ悟空は目見開き、頭を保護するようにして、丸くな
ってかすれた慟哭の繰り事を呟いていた。
「みんな死んじゃった……俺が足手まといだったから、戦えなかったから…」
それは、いつのことだろう。足手まといに思ったことはあれど、実際に足手まと
いになったと思ったことはない。心当たりのないことばかり言う悟空に、唐突に
不安になった。
みんなとは誰のことだろうか。
「ケン兄ちゃん、天ちゃん、金蝉、なたく……っ」
それは誰の名前だ。
「一緒にいるって、約束したのに、なんで俺だけ生きて…!」
ああ、こいつは五百年前に囚われてしまったのか。
強ち外れていなさそうで、ぞっとした。
***
救いはない (´`)
「ここから一番近い村までしばらくかかるようです。食糧を多めに買い込んでお
いて正解でしたねぇ」
地図を片手で確認しながらジープを運転する八戒がのんびりと言った。
荒涼として埃っぽい空気の中、じりじり首や頭の後ろを照る日光に微妙な不快さ
を感じつつ、悟空は欠伸をした。それを見咎めた悟浄がからかうように諭う。
「どうしたよ小猿ちゃん。いつもみてぇに腹減ったとか騒がねぇんだな。食欲の
次に睡眠欲たぁ、マジで猿並の本能しかねぇんじゃねぇの?」
「うるせぇエロ河童!煙草と酒と女にしか興味ない奴に言われたくねぇ!」
「ンだと馬鹿猿!悔しかったらそのガキみてぇなオツムからいい加減脱皮でもし
てみやがれ!」
「悔しくねぇよ!悟浄こそ子供の手本になるような大人にでもなれば!?なれる
もんならだけどさ!」
「あはは、悟浄から雑念を除いたら何も残りませんよ、悟空」
「テメェらうるせぇんだよ!ちったぁ静かにしやがれ!」
痺れを切らした三蔵が空に向かって銃弾をばら蒔き、次いで標準を後ろに座って
いる二人に絞る。次に狙うのは貴様らの脳天だと如実に語る目に、口論を繰り返
していたのも忘れ互いの肩を抱く二人に不満げな冷たい視線を投げ掛け、気が済
んだのか、三蔵は鼻を鳴らしてあげかけた腰を座席に押し戻した。
いつも通りの光景である。いつも、通り。悟空はそれに僅かな安堵を感じた。
近頃、寝付きも夢見も寝起きも悪い。どうしたって終わらない長旅と寝不足で疲
れた体は睡眠を欲しているのに、内容すら覚えてないくせにただ良くはないとは
っきりわかる夢のせいで、なかなか眠りに就けずにいる。ようやく微睡み始めた
というときに限ってもう夜明け前だ。
枕が変わるだけで不眠になるほど、繊細な神経を持ったつもりはない。その日の
内にどこかの町村に入れない場合は野宿だって厭わない男所帯の旅路である。今
更気にすることもないのだが、
「………は、」
例によって、今日も涼しげな風に吹かれながら、細々とため息を吐いている。
運悪く今日は野営とされ、あてがわれた布切れを各々身に巻き勝手な姿勢で寝息
を立てている中で、悟空一人がシーツをくしゃくしゃに丸めたまま夜空を見上げ
ていた。
人工の光が届かない空は暗い。星々が瞬くのを呆っと眺め、晒された夜気には冷
たい。
嫌な夢を見た。
飛び起きた際に誰かを起こすことにならなかったことに、些か胸を撫で下ろした
。誰かが起きて悟空を気遣い始めたら、芋づる式に皆々目を覚ましてしまう。そ
うしたら、起こしたことを、少なからず責められることもあるだろう。それが外
面上でも、心配かけるに変わりはない。夢見が悪いなんて子供じみて恥ずかしく
て、言えない。
いつもいつも、どんな夢を見ていたかなんてのは、目を開けた瞬間に大方が消え
てしまう。ただ、夢の中で悟空の滲んだ視界は揺れ、真っ白な背中を追い、ゆら
ゆら流れる金色の何かに心を弾ませながら声をかけるのだ。
金色の何か。
金色の、誰か。
『 っ!』
「、?」
そう。金色の髪を持った誰かを追い掛け、いつも悟空は走っている。それがたま
に白衣の人間と黒い大きな背中も増えるけれども、けれども悟空は変わらず彼ら
の名前を呼びながら走っている。
『 っ!』
『 っ!』
『 っ!』
そして悟空と同じくらいの背丈の人間が笑って手を差し出し、血まみれになって
、
「……………っっ!」
何かに急かされ、胸を掻き抱いた。
追い掛けるだけなんて悪夢にはならない。決して良い夢ではないが、血を見るよ
りマシだ。
堰を切ったように溢れ出す。大切な、大切な何か。忘れてはいけなかったもの。
忘れないと誓ったもの。忘れてしまっていたもの。
眠りに就く人の顔を窺い見る。順々に見る。
いつもからかうけど、頼りになってくれる悟浄。
何かあったら親身になって話を聞いてくれる八戒。
あそこから出してくれて、傍に置いてくれる三蔵。
大切な人たち。
それが夢で見たぼやけた人影と重なる。
大好きだった。多分、今でも好きだ。気持ちだけが溢れるばかりで、呼べる名前
がないのがこんなにももどかしい。
あの人はからかったりしなかったけれど、一緒に遊んでくれた。離れたりしない
と小指を結んでくれた。
あの人はいつも優しかった。心細いときに服の裾を掴むと、柔らかくゆっくりと
頭を撫でてくれて、本も貸してくれた。
あの人は自分を抱き上げてくれた。無愛想で、滅多に笑わないし笑顔が似合わな
いけど、いつだって悟空が手を引いたらついてきてくれた。
三蔵たちとは違う。三蔵たちによく似ているけど、少しずつ少しずつあの人たち
の残像とずれている。そのぶれがたまらず、悟空はジープを飛び出した。
叫びたい。名前を呼びたい。けれどもそれは悟空の持たぬものである。そしてき
っと返事は返ってこない。夢の最後を彩る赤が、彼らの最後をも告げた色のよう
な気がしてひたすら恐ろしかった。
脇道に逸れて雑木林に突っ込む。息が不規則に乱れようが知ったことじゃない。
悲しい。悲しい。
声なき慟哭をあげながら、そして悟空の姿はそこから消えてしまった。
**
朝目を覚ますと、悟空の姿がなかった。水の臭いもしないし小川の流れる音も聞
こえないので、朝一に起きて顔を洗いに行った、というわけでもなさそうだ。朝
飯時まで寝汚くシーツにくるまっているはずがしわくちゃに丸まったシーツだけ
しかないというのは一体どういうことだろう。
「あのアホ猿、どこに行きやがったんだ」
二つ目の缶詰を開けながら、悟浄がぼやく。
結局買い置きの缶詰を開く時になっても、悟空は戻ってこなかった。食べること
に関して、他の三人の誰よりもとらわれている悟空がいないと、周りはやけに静
かに思えた。
「三蔵、どうします」
「捨て置け。準備ができ次第、出発する」
「ちょ、置いてく気かよ!あいつが戻ってきたときどうすんだよ!」
「知らん。いなかったあいつが悪い」
にべもすげもない三蔵に息巻く悟浄をとりなし、八戒も顔をしかめて言った。
「しかしあの食意地の張った悟空がいつまでも来ないというのは気になります。
昨日は悟浄とも喧嘩なんてしてないでしょう?」
「喧嘩、ね。そういやぁあいつ、最近つっかかってこねぇのよ」
「ずっとあまり寝てないようですし…三蔵、やっぱり探した方が良くないですか
?」
「勝手にしろ。俺は何もしねぇぞ」
「期待はしてません。三蔵は迷子にならないように大人しくしててください」
悟浄の反抗が止まった。
三蔵の煙草の灰がぼとりと落ちる。
八戒は相変わらずにこやかに笑っていた。
「…ちっ」
ジープから腰をあげた三蔵を満足げに見遣り、八戒は缶詰を片付け始める。
「じゃあ、この周辺の雑木林から探しますか」
否やはなかった。
**
全くあの馬鹿猿どこに行きやがった。
白かった法衣は長旅でくたびれ、たった今踏み荒らしている雑木林のおかげでま
た汚れそうだ。次の町までどれくらいかかるか知らないが、これはすぐに洗濯が
必要になるだろうと考えて、憂鬱になる。話中の人間を一発殴らないと気が済ま
ないが、見え透いた八戒の挑発に易々と乗った自分も愚かなものだ。
悟空に会うまできゃんきゃん頭の中で響いてうるさかった声は、今は聞こえない
。けれど自分を呼ぶ声は造作なく思い出せる。それだけ長く一緒にいたのだろう
。長く、いすぎたのだろう。
悟空は、時折世話を焼かせるが、三蔵が守る必要も三蔵を守る必要もない分類に
いる。ただなんとなく共にいただけで、悟空がどこか別の場所に行きたがってい
れば、躊躇わないようにその背を押してやらなければならないと、何やら漠然と
覚悟していた。覚悟だけ、は。
「…くそが」
覚悟しかしてねぇじゃねぇか。
舌打ちして、飛び出してきた枝を跳ね退ける。
何だかんだと言って、自分はあれが心配でならない。見掛け18才のくせに、少し
幼稚な他よりずっと長く生きるであろうあれが、三蔵のいなくなるかもしれない
この先を一人で生きていけるか、不安でならないのだ。
っ!
存外近くで泣く声が聞こえた。哭く声が、聞こえた。
「…悟空、か?」
別に向かってやることもない。呼ばれ続ける声が自分にしか聞こえないのでなけ
れば。
「ちくしょう」
自分にしか聞こえない声がどこか煩わしい。
**
いつの間にやら少しばかり積極的に悟空を探している三蔵を、にやにや諭う悟浄
と八戒にばつの悪い思いをしながら引っ張り連れられて、淀みなく三蔵は林の中
を歩く。はっきりと確かに聞こえた声は一度きりだけれど、迷うことはなかった
。
「三蔵サマもやっぱりペットは大事なんだねぇ」
「うるせぇ」
「あまり三蔵をいじめるとへそ曲げて帰っちゃいますよ」
変なプライドがあるんですからと八戒が追い討ちをかける。
俺は一体いくつだ。
枝を踏み折り葉を散らし、歩くそのうちに向こうを向いて座り込んでいる木の幹
よりも鮮やかな茶色の頭を見つけた。見つけた安堵の下から沸きあがる苛立ちに
、やはり一発は殴らないといけないような気がして、足早に近づく。
「手間かけさせんな猿」
かける声に返る言葉はない。なんだなんだと野次馬よろしく悟浄が首を巡らせた
。
「悟空、戻りましょう。早くしないと悟浄が悟空の分の朝食食べてしまいますよ
」
「おーい、悟空?」
待てど暮らせど返事はない。それどころか、微動だにしない悟空の後ろ姿に痺れ
を切らせた三蔵は、荒々しく悟空の腕を掴んだ。
「ひ、」
息を呑む音。
瞬間、掴んだ腕が勢いよく振り払われる。
「てめ、」
「…っあ、ごめん!ごめんなさい!やだやだやだ、怒んないで!俺が悪いから、
謝るからっ、あやまるから…」
腕を振り回し、みなの手を跳ね退け、悟空は膝を抱えた。小さくごめんなさいを
繰り返し言う悟空に、何かおかしいと気づく。
泣いては、いなかった。ただ悟空は目見開き、頭を保護するようにして、丸くな
ってかすれた慟哭の繰り事を呟いていた。
「みんな死んじゃった……俺が足手まといだったから、戦えなかったから…」
それは、いつのことだろう。足手まといに思ったことはあれど、実際に足手まと
いになったと思ったことはない。心当たりのないことばかり言う悟空に、唐突に
不安になった。
みんなとは誰のことだろうか。
「ケン兄ちゃん、天ちゃん、金蝉、なたく……っ」
それは誰の名前だ。
「一緒にいるって、約束したのに、なんで俺だけ生きて…!」
ああ、こいつは五百年前に囚われてしまったのか。
強ち外れていなさそうで、ぞっとした。
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