心に移りゆく由無し事をば。

とにかく我輩はうんざりしている。

抱くのに掌ひとつで事足りるくらいの矮躯であった時分から、どうやら我輩は生きる物体という特別な存在の枠の中でもかなり逸脱していたに違いない。秀逸とはほど遠く、況して良い方になど逸れてはおらぬ。我輩は感情を持つ生物の中でも、特に破綻していたに違いない。
我輩は矛盾している。その今まで大人しく抱えてきた矛盾にうんざりしている。
我輩はとにかく、同じ種族の者を信ずるに叶わない。生物学上、同じ種類に分類されるはずの者共を信じられない。とはいえ厄介なことに、独りで生きていくことに遺伝子は満足してくれない。他者と話し、情を交わすことにこの上ない喜びを見出してからは、独りではやっていけなくなっている。それは、親に育てられ、常日頃から庇護を受けてきた甘えと習性がこの身に腐った負け犬根性として深く根差しているからである。
悲しい哉、我輩は、信用に置けない者共に、安心を見つけようと躍起になっているのだ。
仮に、誰彼等しく降り掛かる生命の危機とやらが同時にきたとして。我輩はやはり生き残りたいと願うだろう。功徳の微塵もない浅ましい我輩は、恐らく見知った者であっても踏み台にして生きる道へと這い登るであろう。身の安全が完全に保証されてから、　「なんと罪深いことをしでかしてしまったのだろう、私は、」　と悔やむに相違ない。そして、いつしかそれすらも忘れて、明日を荒廃した地上で探すのだ。嗚呼。
我輩は浅ましき人である。
我輩は醜き感情である。
我輩は×××である。
我輩は…




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身の内の汚れをこそぎ落とすような感じで吐き出せなかった我輩は。