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一時停止で逃走、憂鬱と輪廻

似たような名前のとリンク。
矢指野鷺の印象
頭髪―黒。前髪―眉毛の上。後ろ…はもうすぐ肩まで届きそうだが、この学校を
善くも悪くも篏字絡めに拘束している校則を遵守しておられる教師陣に許される
べきであろう範囲なので割愛する。
顔についての細かな描写は避けたい。平安然り、室町然り、顔の良し悪しは時の
流れによりけり、今の大衆受けする顔など昔に通用しないのと同じく、今の大衆
受けする顔が未来に通用するとは限らないからだ。まあ、眉毛は整える必要がな
いくらいとだけ言っておこう。
模範的生徒らしい僕の制服に違反事項はなし。心身に大きな異事もなし。今日も
くだらないつまらない学業を終え、僕は本屋に寄って数冊の推理小説を買って帰
るところだった。僕より先と後にレジに並んでいた人が同じ高校の人間だったと
いう偶然が、小さな小さな違和だった程度の今日。今日も実に平和である。

「おいこれアンタのか?」

後続のあの人が僕に言った。
もしかしたら僕が上の学年であるかもしれないという予想はないのかと彼の手元
を見ると、この本屋の薄っぺらいポイントカードがあった。財布を見て確認する
。

「すまない。確かに僕のもののようだ。ありがとう」
「ん?んー」

なんとも曖昧な、現代に蔓延る若輩者のような気のない返事をして、彼は本の袋
を抱え直した。大きさからいって、多分、単行本。もう少し本を読めと嘆く、見
もしない彼の親が目に浮かんだが、この際どうでもいい。
僕は踵を返して自転車の籠に学校指定の何の変哲もない鞄を放り込んだ。本の手
提げ袋は左のハンドルへ。ペダルを漕いだ。
先刻の彼もだが、僕と話すと大抵の人間が怪訝そうな顔をする。教師は渋い顔を
するし、同級生はそれが素かと聞いてくる。しかしそれが何だ。僕は別に普通を
求めたりはしない。普通など、ただ自堕落気味に生活をしても拾えるものなどい
らない。僕は正当な道なき道を歩きたいのだ。
途中で、僕の前に並んでいた人を見つける。交差点をふたつ、過ぎてもまだ僕と
平走した。もしかして僕と同じ住宅街に住んでるのではと期待した、確率の低い
偶然に心踊りもしたが、生憎彼女はスルッと横道に逸れてしまった。偶然なんて
こんなもんだ。
今頃、学校で擦れ違うかもしれない程度の接点しかないであろう彼もぼやいてい
ることだろう。

「…あいつ、スカート履いてたよなぁ…」

以上が僕こと、矢指野鷺―生物学上メス―の外見的特徴である。
余談だがこの彼が隣のクラスの者だと知ったのは、翌朝遅刻をして生徒指導の教
師に絞られていた彼をうっかり校門で見てからだった。これが、英秀との出逢い
。
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